八久和
「ヤクワ」と読みます。朝日連峰を源流に、庄内鶴岡で日本海に流れ込む赤川の支流。
上流部は出合川(デヤガワ)とも呼ばれています。
沢屋さんやイワナ大好きな釣り師の間でも評判ピカイチの谷底。
源流部を流れる川に入るのには、どんなルートをとっても丸一日かかる上、一度増水してしまうと逃げ場を失う場所にあるため、今までビビッて指をくわえて眺めていた渓谷です。
今回、テンカラ釣りの瀬畑雄三氏が『源流テンカラ釣りの知恵 (渓の翁、瀬畑雄三の遺言。)』で紹介されている、小国沢を下降して八久和核心部に入るルートをとって挑んできました。
その規模たるや、すべてにおいて今まで見てきた沢の「3割増し」。
沢の水量、滝の数、泳ぎへつり高巻きもさることながら、アブや蚊、ブヨの宿敵に加え、イワナの大きさや数まで全部大きの多いの。
そしてただでさえ山深い朝日の核心部まで潜り込んでいくのですから、行くだけで丸一日のへとへと。そこから沢を遊んで戻ってくると身体がすっかり空っぽになってしまいました。
大井沢川沿いを走る林道にて登山道にアクセス。
朝日にとりつく登山道のため、標識も登山道もしっかりしています。
大クビレ沢出合駐車場から山登りスタートします。
車降りた瞬間から「コシジロアブ(メジロアブ)」が大挙して押し寄せてきます。
体験された方ならわかると思いますが、この状況はかなりの狂気です。
そして、これから4日間、ほとんどずーーーーとこの状況が続きました。
ほとんど無意識のうちに、自分が知る限りすべてのボキャブラリーを総動員してののしり言葉を浴びせかけたと思います。
自然の猛威には一切かないません。
八久和、恐るべし。
しかし釣りキチ釣り師の山屋としてこんなのにめげてはいけません。
いざ出陣!
地図上道がジグザクしていなかったので油断してました。
容赦ない登りが稜線上まで続きます。
等高線めちゃくちゃ込み合ってます。
天気はピーカンの晴れ。蝉の声ジージーの夏真っ盛り。
汗ふき出してきます。
山と高原の地図には出ていませんが、大クビトといわれるポイント、登山道から少し離れた場所に水場があります。「マムシが出ます」との注意書きがあったので気をつけてください。
3時間弱で「柴ナデ」と呼ばれる稜線上のポイント(標高1349m地点)にたどり着きます。
ミヤマが出迎えてくれました。大人になって気づきましたが、ミヤマって「深山」のことなんですね。なんかノコギリとかよりかっちょいい名前です。「サトヤマクワガタ」ってのもいたらいいね。
ここから沢下降開始します。灌木と根曲がり竹の藪漕ぎ…携帯GPSのカンニングと地形図で目星をつけながら、一番簡単かつ安全に小国沢まで下りられるポイントを探します。
が、降りれば必ず目的地の小国沢に出合うので、冷静にルートファインディング読図をしていそうで、ほとんど力業です。
ようやっと沢らしき形に出くわす。
ようしお前に決めよう。
何とか灌木にぶら下がりながら小国沢の上流部、地形図でアオ倉沢の水線が描かれているあたりまでたどり着きました。
昼食…
今回の食糧計画はいたってシンプル。朝パン、昼インスタントラーメン、夜アルファ米レトルトカレー。これを3泊4日すべて同じに繰り返しますウルトラライト・ハードコア計画です。3泊4日の食糧を朝昼晩の3食で考えると12食分必要となりますので、こんなろくでもない食事でも結構な重量になります。
沢を降ると魚が走る走る。
さっそく手づかみしました。
「源流部あるある」ですが、岩の下に逃げ込んだ魚は、下に手を突っ込むと思いのほか簡単に捕れます。
コツは、十分に水で手を冷やしたあと、「ふわっと優しく包み込むようにつかむ」ところです。
釜を持った滝が出てきます。
懸垂下降用のスリングがありました。
完全擬態中
「おぬし、わたしがどこにいるかわかるかね…」
この後何度か滝をやり過ごして、めんどくさいところは釜にざぶんと飛び込んじゃったりしながら…
わああぁあっという間に、
小国沢と八久和の出合いまでたどり着きました。
日暮前の17:40
参考にした瀬畑氏のお話に違わず、八久和の右岸、小国沢の左岸に最高のロケーションビバーク地がありました。
1日目終了
2日目始め
本日モ快晴ナリ
赤とんぼが、ほとんど空気の一部と思われるほどたくさん飛んでます。
時々岩魚が水面を割ってジャンプしています。
中には身体すべてを出して白いお腹をさらすほどの跳躍っぷり。
なにかなにかとみていたら、産卵のためか水面近くに飛ぶトンボを、水面下から追いかけて飛びついているではありませんか。
こんなライズ見るの生まれて初めてでアリマス。
これだけで八久和まで来た甲斐があったと思えるほど原始的な世界。
Oh…Wilderness…溜息出ちゃいます。
川の水量が多いので油断できませんが、それでも白い花崗岩を主体とした渓は、夏の日差しを照り返して明るく大変麗しいお姿。
釣りをするにしてもポイントがありすぎて前に進めないため、大きい岩魚を見つけながら拾っていく釣りをしていきます。
魚がみんな大きすぎて見る目が狂ってきます。
普段眼鏡をして毛バリ釣りをしているのですが、渓が明るく魚が大きいので、眼鏡なしでイケます。
八久和のご利益が視力に効いてます。
釣れてくる魚も、渓の白に染まって皆さん白っぽく美女美男子あら素敵。
と、そんないいことばかりではなく、ところどころ川幅が狭まり、ゴルジュといわれる崖の間を通り抜ける難所も出てきます。泳ぎも混ぜながら進んでいきます。
2日目は、多少の夕立もありましたが、一時的なもので、増水までには至らない程度で済みました。
一気に水嵩が増すといわれる場所なので、ちょっとの天候変化にビビってます。
無事二日目のビバーク地到着。
ここは登山道との交差点にある場所のため、川沿いから、増水にも耐えられる高台まで、何か所か天場がありました。
3日目スタート
本日は潜水艦のような大きい岩魚がいると囁かれている滝、通称「呂滝(ロタキ)」を通過します。
そしてそのまま東俣沢をつめ上げて、登山道のある稜線上まで突き上げ、さらに天狗小屋で泊まる予定です。
登山道との交差を超えて、八久和で一番険しいとされる渓のオツボ沢と出合いにゴルジュを交えた滝が出てきます。ここはオツボ沢経由で巻いて行きます。
私が行った時にはところどころにピンクテープがありました。オツボ沢を越えた後、結構長めに斜面トラバースで巻いて行きます。
おおよそ本流滝記号の150m先あたりでようやく沢床に降り立ちます。こちらにもピンクテープがあります。
この度はバックパックのテストに加え、新作のウエストポーチも試作品を作って試してます。
バックパックに使った生地は、防水処理のされていない、シンプルなナイロン平織生地。
泳ぎ終わった後の排水性が抜群です。
普通、バックパックに使われている生地は防水処理がされているため、一度水が溜まってしまうと底の方でたぷんたぷんに水が溜まってしまします。そのため沢登用途のバックパックはハトメなどで排水用の穴をつけて処理をします。しかし、バックパックの底に、裂けなどのリスクがある穴をつけないで何かいい方法はないかと模索してました。
今回使用した生地は、ウレタンやシリコンコーティング処理を全くしていないため、ほとんどメッシュといってもいいくらい排水性抜群。一方素材自体は通常のバックパックに使用されている生地と同等の200デニール糸を使用して織られているため、耐久性も問題ありません。
ウエストポーチも満足する出来です。
バックパックのフロントパネルと同じ生地を使用したため、おしゃれじゃないですか。うふふ
とかいっているとコマス滝。
高巻きの必要な滝ばっかりで、ちょっと嫌になっちゃいますが、それぞれの釜に岩魚が浮いてないか見るのを楽しみに進んでいけます。こちらは滝少し下流のウシ沢経由で尾根乗越の巻きで。こちらにもテープありました。
いよいよ核心の呂滝に到着。
残念ながら潜水艦は本日不在でした。
その先「弁天岩滝」といわれる一枚岩が出てきます。
真っ白な花崗岩でかたち造られた柔和なお姿は、弁天様そのもの。
八久和のお乳に抱かれてください。
西俣沢出合い。西俣沢は冷たいです。遡行図にあるよう、水量は本流4に対して6くらいありました。
すぐに中俣沢と東俣沢出合いにたどり着きます。ここら辺で魚止めかと思いきや、東俣沢中盤まで魚が走ってました。
東俣沢上流部は、赤っぽい岩の小滝が連続してきます。黒っぽい苔が生えている岩は滑りますので気をつけながら進みます。
最後は岩場主体の詰め上がりになるかと思いきや、早めに草付きにとりついたためか、灌木の藪漕ぎになってしまいました。
稜線突き上げ16:15
なんとか日没までには小屋に着けそうです。
遥か遠くに山小屋が見えました。竜門小屋でしょう。
この後気力体力使い果たしたためか、へとへとになってしまいました。少し進んでは休むを繰り返しながら這う這うの体で小屋に転がりこむ。18:30
天狗様がお出迎え。ちょっと怖い。
管理人さんは不在でした。宿賃1,500円ナリ。
今晩はアブや蚊に悩まされることはありません。
昨晩のように首筋を這いまわる蟻に何度も起こされる心配も皆無。
硬くて平らで安全な空間でぐっすり眠れる幸せ。
夜が訪れると、遥か東の彼方に寒河江から山形にかけての夜景が輝く。
見上げれば満点の星空。
ぼんやりと白く流れるミルキーウェイは、八久和の花崗岩を思い出させてちょっぴり感傷的。
谷底にいたため忘れていました。
山の頂までくればこんな景色があったのでした。最高の気分です。
翌朝も快晴。
思えばこの4日間、ずっと天候に恵まれてました。その中でも、下山日である今日の雲はなんだか下り坂の雰囲気。好天がなければ進まなかった今回の山行、ありがたいことです。
天狗様に手を合わせます。
が、やっぱりちょっと怖いです。
下山は「栗畑」から「焼峰」経由の登山道を使って降ります。
最後、稜線から降る前に振り返ります。山の峰々に深い襞が通っている場所は、今までたどってきた八久和川の渓谷。名残惜しいですがお別れです。
途中、山小屋の管理人さんに出会いました。本当にご苦労様です。
約3時間ほどで無事下山できました。
今回は、身体がもぬけの殻になってしまうほどの山行でした。
ご精読ありがとうございました。
コメント
先日すれ違った者です。バックパック作っておられる方とは思いませんでした。そんなことなら実物を見せてもらえば良かったと後悔しております。またどこかの沢で会った際には宜しくお願いします。
それにしても虫が凄かったですねぇ、まだあちこち痒いです(笑)
たにのひよっこさんコメントありがとうございます!
ほんとに虫酷かったっすね…アブ、コシジロアブにブヨ、カにヌカカに…
私もいまだに痒みに悩まされるてます。
こちらこそ、また沢の中で会えましたらよろしくお願いいたします!