導入
大変ご無沙汰しております。
ひっさしぶりのブログ山行記録です。
さて、突然なカミングアウトですが、気に入ったものを繰り返してしまう癖があります。
例えばほうれん草のバター炒めが美味しすぎて、1週間食べ続けたことがありました。
同じメーカーの同じ商品の同じ色のシャツを5着持っています。
たまに自分でも呆れることがあるのですが、それでも幸か不幸か、そんな性格のために執拗にバックパック作り続けて今があるので、それはそれで悪いことばかりではないのですが。
それでも「ちょっとどうかしちゃってんじゃないのか?」と思うこともあります。
さて、山に関しても同じことが言えます。
「あぁ、この山ほんと最高…」
なんて思ったら、それこそ毎年のように同じ山に登り続けてしまいます。
2021年、私の住む山形県に朝日連峰という、めちゃくちゃ大きな山のかたまりがあるのですが、その山域に流れる八久和川という場所に初めて足を踏み入れて以来、すっかりその虜になってしまってまして…
目をつぶれば八久和川を悠々と泳ぐイワナの姿があらわれるというありさまが続いております。
問題は、その八久和川の核心に降り立つルートが片道6時間かかるという点
行くのにそんななので、行って1日遊んで帰ってくるとなると2泊3日以上が必要な場所になってきてしまいます。
2022年も何度か訪れているのですが、行けばいくほどその深淵捉えがたく魅力が増すばかり。
行きにくく、一度は入ったら容易に脱出できないという立地条件もまた魅力に拍車をかけてまして…
朝日連峰の奥深い山の懐に抱かれたくて仕様がないという、八久和ホリック岩魚アディクティッドな症状が続いておりました。
そので2023年はとことん八久和川に通ってやる!と息巻いておりました。
八久和川1回目
シーズン明けは突然。
7月21日、まだ梅雨が明けないと思っていたので、八久和川ではない場所を予定していました。
一度雨が降ると、増水が恐ろしすぎる場所で、丸一日かけてたどり着いたにもかかわらず、増水でその先進むことができず引き返した経験がありました。
しかし、空を見ると夏の日差し。太陽がギンギンギラギラとやる気満々で待ち構えています。
天気予報を見ると明日以降晴天続き。
あれ、これ梅雨明け?
急遽目的地を変更して、待ちに待った八久和川を目指しました。
山に登るとまだ梅雨の気配
下降に使った小国沢の一部には雪渓が残っていました。
ここで誤算。
雪渓は問題ない状態でしたが、山の保水量の関係からか、水量が多い。
まだ支流にいるから問題ないのですが、本流の八久和川の出合でどうなっているか…
昼過ぎからぽつぽつ降ってきた雨のせいでしょうか、濁りが入って増水しています。
とりあえず支流と本流の出合いにテント泊して、一晩様子を見ることとする。
翌日快晴。
濁りも取れて流れは清らかナリ。
でも、ちょっと水の量が多い気が…
それでも1年間待ちに待った八久和川。
あまりにも行きたいすぎたのでそのまま遡行を続行することにしました。
水量が多いです。
水の流れが太すぎるため、徒渉が思うままにできません。
でも両岸狭まったゴルジュ地形を幾度となく越えていくため、右岸/左岸一方でしか通過できない場所が連続します。
で、徒渉失敗のため流される。
流されるの怖いので、ジャンプして流心を飛び越す作戦を採用。
着地点が水面下で判断できないところを無理に飛び越して膝を強打。
怪我しました。
腫れてパンパンだったので「折れてるかもね~」とお医者さんはおっしゃっていたのですが、レントゲンを確認すると幸い折れてはいませんでした。
毎朝牛乳飲んでてよかったね!
でも2週間安静。
朝日連峰って雪渓が残るため、山深く入る源流域が開く季節がとても遅いのです。
7月下旬にようやく入れるかどうか。
しかも、イワナと遊ぶとなると、夏の暑さに弱いため、お盆を過ぎるとぱったりと姿を消してしまいます。
そんな、待ちに待った最高の季節、7月下旬から8月上旬が、膝の故障であっという間になくなってしましました。
反省です。
それでも無事帰ってこれたことをありがたく思わなくてはなりません。
山は恐ろしい…
八久和川2回目
膝の怪我も快癒して(したことにして)8月9日にリベンジ。
この回の山行は快適で愉快でした。
水量はいつもの八久和川で、渇水でもなく増水もしていない状況。
天気は快晴。突き抜ける青空。あぁ僕の夏休み…
毛鉤を落とせば、元気なイワナたちが飛び出してきます。
お盆にかけて大発生するメジロアブもほどほど。
あまりにも幸せ過ぎる状況から現実に引き戻すためなのか、時たま夢見心地な私に噛みついてきます。
なぜか金色の固体(アルビノ?)ばかリ飛んでいました。
夏真っ盛りといっても、源頭部の切れ込みにはまだ雪渓がちらほら。
できれば今年は八久和川をさかのぼって、中俣沢を詰めあがりたかったのですが、怪我した膝が痛いので早々に断念しています。
八久和川の最上流部にも雪渓が詰まっていますし、8月いっぱいまで残るでしょう。
ほんとこの回は幸せでした。
八久和川3回目
味をしめての3回目。8月21日から3日間。
今年の夏はいつも以上に暑く、特に私の住む山形市は盆地のためカラカラに干上がってしまっていました。
早く沢にどっぷり浸って涼みたい。
今年3回目の八久和川に向かいます。
少し不安がありました。
晴天続きはいいのですが、あまりにも日中の天気が良すぎるため、毎日のように午後になると大きな入道雲がにょきにょきと急成長して、夕立を降らせていきます。
この夕立を谷底にいるときなんかに直撃されてしまったらやだなぁなんて思ってたら、直撃されました。
いつものように小国沢を下降中、雲がかかってきたなと思うと、瞬く間に大粒の雨。
あれよあれよと思ってる間もなく土砂降りになってしましました。
沢に浸かりながら下っているので、もとから全身ずぶ濡れ済み。
雨で泥汚れが取れていいやなんて思っていると、みるみる水嵩が増してきます。
八久和川との出合いまで500mちょっとな距離。
本日予定のテン場まであと少しなのですが、側壁から流れ込む支流がジェットのごとく泥水を吐き出して、その先は濁流。
沢沿いで進むのは困難な上、いつ、後ろからとんでもない濁流に襲いかかられてもおかしくない状況。
あまりにも怖すぎるので、ひとまず沢床から横の壁をよじ登って渓から脱出します。
※あまりに怖すぎて写真撮れませんでした。
状況的にこの後取れる手段。
1 雨が止んで増水が落ち着くのを待つ。
2 側壁を何とかよじ登って平場を探してビバーク。
3 側壁500mをトラバースして出合まで向かう。
雨は止んでも増水がひく目途が立たないので1は却下。どうせビバークするにしても、まだ時間はたっぷりあるので、とりあえず3を採用して、だめならどこかで落ち着こうと思って、先に進むことにしました。
まともに歩ける側壁の傾斜じゃありませんので、ほんと大変でした。
幸いなことに、側壁に沿って、雪国特有の下向きに生えた、大人の腕ほどの太さのブナが絶え間なくあるため、これにぶら下がりながら進んでいきます。
ブナを両手で掴んで(手を離せば渓底真っ逆さま)、右足跨いで、左足をかわして、身体がそのブナを越えたら、その先にあるブナを右手で掴んで、左手で掴んで…これの繰り返し。
2時間で300m。
150m/時間の絶望感たるや…
1分あたりの進む距離は2.5m/分。
1秒あたりにすると4.17cm/秒。
秒速5センチメートルを上回るノロさ。嗚呼…
そして気づきました。
地図上ではあらわれないような尾根があることに、
地面が見えずとも、尾根にはアカマツやミズナラなど、生えている木が異なっているため判断がつきました。
そして尾根上の木は、大きく育っているため、その下の灌木はまばら。
進みやすくなっています。
これは!
この尾根沿いに100mよじ登って、
大きな尾根をのっこして、
反対側の尾根沿いに進めば、比較的楽に目的地のテン場にたどり着けるのではないか!
もう、このトラバースは辛すぎるので、
いっそのこと登った方が楽なのではないか!
当初はまったく登る必要のなかった100m。
その前のトラバース2時間で300mがなかったらとらない作戦ですね。
急がば登れを学びました。
無事日没前にテン場に到着。
雨はやんだものの、濁流はそのまま。
仕方がないのでこの水を飲んで一晩過ごしました(この後3日後に原因不明の腹痛でひどい目にあう。増水前には「一晩明かせるだけの水を汲んでおく」ということを学びました)。
翌日は快晴ナリ。
幸いなことに増水も引いて遡行に問題ありません。
しかし不思議なことに8月9日に来た時と状況ががらりと変わってしまってました。
イワナたちが姿をあらわさないのです。
昨日の増水がいけなかったのか、
暑さにめげてしまったのか、
お盆の時期に人が多く入ったのか、
原因は不明ですが、川が静まり返っています。
前回の横溢するような躍動した生命感をもつ川の様子とまったく違うありさまに唖然としました。
不可思議です。
イワナ考_a study on trout
阿部武という伝説の釣り師がいます。
「川の下にも川がある。川の横にも川がある。それがイワナ、ヤマメの渓川である。」と、その著作『東北の温泉と渓流』(昭和55年度版 釣り人社)でイワナの本来の住処を語っています。
彼によると、釣り人たちは、ほんの少しの間だけ「表の川」に出てきたイワナと遊んでいるという話になるわけで、あまりに現実離れした世界観。
常人に理解できない境地かと、呆気にとられる思いがしますが、しかし深山に暮すイワナと接すると、こんな言葉も俄然現実味を帯びてきます。
夕立ひとつで濁流と化す流れ。
雪解けの時期は、雪代でどれだけ増水するのかしれません。
ましてここは日本屈指の豪雪地帯。
真冬には何m、何十mもの雪に埋まるであろうこの谷底で、彼らは一体どんな一年を送っているのでしょうか。
知ったようで、まったくわからないこの生き物。
海と隔てられたこの陸の孤島、山奥深くの谷底で、何万年もの時を超えて生き延びてきました。
バックパック開発中
機を失した感満載ですが、2023年夏の山行記録でした。
仕事に精出してバックパック作りで籠りきっていると思いきや、決してそんなことなく2023年シーズンもせっせとお山に通っておりました。
とくに開発を続けていた、大型バックパックの新モデルBackpack40のテスト三昧な日々。
大枠の骨格は、大型バックパックBackpack45をそのまま引き継いでいるのですが、容量を見直してカタチを変更しているために、2023年シーズン中はフィールドテストを重ねていました。
ご覧いただきありがとうございました。
次回は、「真夜中の大洪水で人生最大のピンチ!」をお届けします。どうぞお楽しみくださいませ。
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