Blog-禁断のお山「湯殿山」

登山

それ自体がご神体とされ、「語るなかれ、聞くなかれ」と神秘のベールに包まれたお山。
山頂に続く登山道はなく、登っちゃイケナイ感じの雰囲気がびんびん感じられる湯殿山(ユドノサン)。

先週面白山登山の時、その麓の看板いわく、
「…近世の山岳信仰は、西は湯殿山、東は面白山権現と云々」

東を踏んで西をとらないのは片手落ちと意を決して、この度湯殿山を登頂してきました。

湯殿山には登山道がなく、周囲を根曲がり竹や灌木の密ヤブで覆われているので、それらが雪で隠れた時にしか登れません。

ちなみに夏の湯殿山はこんなお姿(左側の山です)。こんもりと盛り上がったその山容は、とっても柔らかで優しい。

9:10
駐車場。志津温泉から少し先に行った場所が車両通行止めになります。
少し時間が遅かったこともありますが、平日というのに10台近くの車両が止まっている…
皆さん湯殿山なのでしょうか?
山形のバックカントリースキーのおじさま方が3名いらっしゃいました。
背中には使い込まれたアークテリクスのバックパック。かっこいいです。
湯殿山はどれですか?と会話すると、左から湯殿山、姥ヶ岳(ウバガタケ)、月山(ガッサン)本峰と指さして教えてくださいました。
月山「本峰」と呼ぶ当たり、大変この山域への愛を感じます。

道路の積雪状況。
3月になって、山形は好天が続きかなり溶けたと思われるのですが、それでも3m近くの高さがありました。

通行止め標識から先も、道路の除雪は続いており、雪が残っていない状況。
目線より高い位置に雪原があるため、どこから取りついていいやら迷って進んでる間に、少し進み過ぎてしまった。
帰りに気づいたのですが、どこでもよかったようです。
駐車場周辺は、トレースが縦横無尽に続いてました。

9:42

ネイチャーセンターに着く。
駐車場でお会いしたおじさま3名グループと再会しました。

ここから湯殿山方面に着いた足跡が集まって一本道になりました。
スキーの跡もあります。

湯殿山の山に取りつくまでのアプローチは、石跳川(地元の人はイシッパネガワといってました)をたどっていきます。
場所によっては傾斜の強い場所を斜めに横切るため、少し緊張します。
靴を斜めに切り込んで蹴りつけ、足場を作って進みます。

9:55

左岸(川の流れる方向に向いて左手側)に崩落地があります。
ぼろぼろと落石が落ちてきてました。

この後気づくことですが、ここあたりから川を右岸側に渡って尾根上に取りついていくのが正解です。
春の日差しがぽかぽかとしていて、のほほんと歩いていた私はそれを見過ごしてしまいました。

足あとが登山靴のものからがアイゼンに変わってきました。

ブナがちょうどいい間隔で立ち並ぶ中を歩いていると気持ちいいです。

大きなブナの木が生えてます。

この山域は、日本海側の湿った空気がもたらす豪雪地帯で、日本はおろか世界屈指の積雪量。
そんな厳しい場所でもしっかりと根をおろして生きるブナに頭が下がります。

石跳川をはさんで、左手側が湯殿山ですが、右手方面、姥ヶ岳方面にとりつくスキーの方がいました。

木に巻き付いた蔓が、四方八方にょきにょきと枝を伸ばす。

昔から人々の信仰を集めていた月山周辺は、普通の山と違う雰囲気を感じます。
日本海側の湿った空気で作り出される大量の雪が影響するためか、山域全体崩落地が点々と露出していて、鬱蒼と木々が生え茂った他の山々がつくりだす山容と一線を画し、かなり神がかっています。
それら山容もそうですが、植物たちの生命力も異常に強い気がします。
山菜文化の根強い山形でも、月山で採れた山菜はとても重宝がられる印象。

目指す湯殿山が近づいてきました。

と、ここらあたりで地図を確認すると…

紫の線をたどって歩こうと思っていたのですが、現在地は青い点です…
かなり外れています。
なるほどトレース足跡がなくなってたはずです。

無理やり軌道修正。
川を渡り、下りは絶対に行きたくない急登を登ってしまう。

10:44

軌道修正が成功しました!
みんなの足あとに戻れて安心します。

帰り道に気をつけてトレースを見ていったのですが、みんなそれぞれ思い思いに尾根に取りついていた様子です。
ちゃんと自分で考えて登らないといけません。反省します。

ここからなだらかな尾根上をたどって、山頂まで一気に登ります。

次第にブナも生えない領域に入る。

ふと振り返ると朝日の峰々が!

景色に励まされて登りきると…

稜線に出ました。

両端が鋭く切れ込んだ尾根をナイフリッジといいますが、湯殿山のそれは対局です。
とても柔らかく丸みを帯びて、絹ごし豆腐です。

んなこといって油断していたら、ずぼっと踏み抜く!

でっかいクラックが入ってました。あっぶね。

姥ヶ岳方面は降り積もった雪と、周囲の斜面に積もった雪を集めて真っ白。

ここから山頂まで一直線の直登です。
相変わらず貧弱な装備で足元はチェーンスパイクで登ってますので、慎重に慎重を重ねて、一歩一歩確実に確保しながら登る。

すると…

11:51

山頂に到着しました!

先行していた3名のパーティーがいらっしゃいました。
登山を想定していない山のため、看板等一切ありません。
「ここは湯殿山山頂ですか?」
とたずねると、
「そうです。私たちも先行していた方にきいて、ここが山頂だとわかりました」と返してもらいました。
今はどんな山でも、それなりに山頂には看板なりレリーフなりが立てられ、登山者をもてなしますが、ここはそんな人工的なものは一切ありません。
とても原始的な感動を味わえます

北西方面、日本海側には真っ白なお山が浮かんだようにそびえてます。鳥海山(チョウカイサン)です。

コル鞍部をはさんで向側には姥ヶ岳。その先には月山があるはずです。

その麓には我が家の蔵王山塊。

朝日連峰の峰々。大変美しいです。

ここまでくる間に、お腹の虫が鳴りまくってシャリバテ寸前でした。
山頂に着いたらお湯を沸かして昼飯だと息巻いて登頂してきましたが、ここまで突き上げたとたん、日本海方面からめっちゃくちゃ冷たい風が吹きつけてくる。
吹きっ曝しの山頂で落ち着くことができませんので、おにぎりを一心不乱に頬張り、そそくさと帰路につきました。

帰り道、湯殿山と姥ヶ岳の間にある谷に、蛇の通った跡のような、優雅なシュプールが描かれております!
来た時にはなかったのにどうして…と振り返るとバックカントリーのスキーヤーが登り返してきてます。

稜線上にいると奈落の底を思わせるような怖いほど真っ白な谷。
そんな中勇壮にスキーで滑り下ったのでしょう。
この突き抜けた青空の中、誰の痕跡もない雪面を滑るなんてどんだけ気持ちよかったことか!
こちらのスキーヤーの感じた自由を思って大変感動しました。
その心意気に、最大限の敬意を表します。

登山者、ハイカー、スキーヤー、スノーボーダーエトセトラetc…
それぞれ名前は違えど、身一本、自分の足で登ってきて自然の厳しさを全身でビシバシ感じながら、めいっぱい遊ぶ気持ちはみんな一緒。
きっと同じ感動を味わっているのだろうと、勝手に共感を覚えてしまいます。
山頂付近でお会いする人々は、皆さん共通してめちゃくちゃいい顔してます。

12:22

帰路の途中。姥ヶ岳方面の中腹に、月山スキー場のリフト終着点が見えました。

今年、山形は大変雪が多い年。
雪のせいか、ブナの木が真っ二つに折れて、片割れが横たわってました。

夏山のシーズンになったら、倒木で登山道が通せんぼされている場所がかなりある予感です。

ふと足元をみると、不思議なドーム状をした氷が…

中身はブナの木の実です。
この部分だけ溶ける速度が異なるため起こる現象なのでしょうか?

宿り木のぼんぼん

前回に登場した雪虫も、大挙して雪面を歩き回ってました。
面白山で見たものより半分ほど小さい。
種類が違うのでしょうか?まだこの先脱皮して大きくなるのでしょうか?
無数にいる雪虫は、不思議と同じ北の方向に向かって歩いています。
その先には湯殿山…大変信心深い虫です。

雪の中でもブナも芽吹き始めています。

高気圧に恵まれ、太陽さんさんの日差しの中登山できました。
落ちた枝も、周囲より多くの熱を持つのでしょう、雪の中に食い込んでいきます。

帰り道、尾根から川沿いを歩く登山道までどんな感じで戻るのか注意してみてましたが、正解は結局見つかりませんでした。

適当な場所から、尾根の下に降りる。
写真のとおり、この尾根から、石跳川まで下る斜面は結構な傾斜で、場所によっては雪崩れてます。

13:45

ネイチャーセンターに戻ってきました。

県道114号に降りてきました。

氷柱に伝って溶ける雪。季節は春に向かいます。

14:23

駐車場到着

今回も小型のバックパックを兼ねた山行。
大型パックはウエストハーネスまで含めた設計のため、かなり難しかったのです。
一方小型パックはショルダーハーネスのみの設計なので、簡単だろうと高を括ってました。
しかし、小型パックでも、容量変換ができる機能を備えたり、荷物の出し入れをしやすい構造をつけたりと細部に拘っていったため、かなりの難産でした。
とはいっても、今回の登山で納得のいく出来に仕上がってきたことを実感。近々詳細を公開できればと思ってます。

使い込んだプラティパス2リットルに穴が開いてました。
PCTから使ってきた相棒ですので、名残惜しいです…
命をささえる最終防衛ラインの「水」。
たかがプラスティック水筒ですが、こいつの水の残量が、私の行動範囲を決めるすべてでした。
修理して使えないこともないでしょうが、ここまで使い込んだら道具としてもう充分その役目を果たしたでしょう。
感謝して別れを告げます。

帰り道、月山の峠を越えて、国道112号を山形市方面に走っているところ、西川町で見慣れない名前の温泉がありましたので、ふらっと立ち寄る。
「海味」と書いて「カイシュウ」と読む珍しい名前です。

入浴料が200円。
お風呂は大変シンプルな作りで、清潔感にあふれていました。
柔らかな湯質で、ちょうどよい湯加減で長湯をしてしまいました。
身体がぽかぽか芯まで温まって、登山の疲れを癒してもらいました。

廊下にはお雛様が飾られていました。
ひな祭りは先週。お嫁に行きそびれてしまいます!

今回は以上です。ありがとうございました。